風花さまより、頂き物の騎士皇子です!


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 犬猫には、結構はっきりした好き嫌いが存在する。やたらと懐かれたり、なにもしていないのに吠えかかられたりするあれだ。
 基本的に猫は、予測のつかない行動をする相手や活動性の高い相手が苦手であるという。ああ、なるほど嫌われるわけだと窓下の光景を眺めながらルルーシュはこっそり溜め息をついた。
「…逃げられました」
 苦笑しながら白い服の彼は戻ってきた。扉ではなくバルコニーのほうから。
 美に対しては妥協を許さない三番目の兄が選んだだけあって、その騎士服はスザクによく似合っている。比較的シンプルなデザインを好むルルーシュとしてはすこし装飾過多とも思えるが、白を基調に青と金を効果的に配したそれはスザクのどこか潔癖な雰囲気を引き立てていた。
「俺を放って、なにを猫など追いまわしてるんだ、おまえは」
 ちょっとした風邪だというのに二日もベッドに押し込められて、ようやく床を上げる許可の出た今も窓さえ開けさせてもらえない。おかげでルルーシュは機嫌が悪い。
「騎士候補としての自覚が足りないんじゃないのか」
「あなたに、あの猫を抱かせてあげようと思っていたのに」
 彼は肩をすくめてみせた。
「可愛かったですよ、まだほんの子猫なのに、目を真ん丸くしてシャーッって鳴いて。必死でこちらを威嚇してくるんです」
「…それは明らかに嫌がっているんだろう」
 その恐ろしいほどの身体能力でどこまでも追いかけてこられては、それは猫だって怯えもするだろう。
 バルコニーから木の枝伝いに庭に降りてこれで安心と思っていたところに、普通なら追ってこられるはずがない人間が三メートル近い高さを物ともせずに飛び降りてきたのだから。
 さぞ怖かっただろうなとルルーシュは遠目に見ただけの子猫に同情する。漆黒の毛並みの可愛らしい子猫のようだったが。きっと、二度とこの辺りには近づかないことだろう。
 スザクは猫に好かれない。というか、はっきり言って嫌われる。
 ああいった調子では当然だろうとルルーシュは思っているが、意外に猫好きなスザクは猫を見かけるたび律儀に手を出しては拒絶されていた。よくも懲りないものだと感心するほどだ。
「あんなふうに向こうが嫌がっているものを無理矢理に抱きしめては、逃げられて当然だぞ、スザク」
「わたしは可愛がろうとしているつもりなんですが」
 よくわからないという顔でスザクは小さく首を傾げ、
「まぁいいです。…失礼します、殿下」
 いきなりルルーシュを抱きあげた。なにをするんだと苛立った声で抗議するのに、スザクはにっこりと笑ってみせる。
「本日の執務は二時間だけだとお約束しましたね? 病み上がりなんですから無理は禁物です」
「あれはおまえが勝手に…!」
「…ルルーシュ」
 抗議の声を堰き止めるようにスザクはルルーシュを呼んだ。
「まだ本調子じゃないだろうからと、色々と我慢してるんだけど、僕は」
 いいの? とからかうように訊いてくる。耳朶をペロリと舐めあげられて、ひっ、と悲鳴のような息が洩れた。
「もう元気だというのなら手加減してあげないよ」
 そっとベッドに下ろされて、夕食まで眠っておいでと彼は微笑う。子供扱いしてくる彼をルルーシュはギリリと睨みつけて、
「そんなところにまで口を出す権利を与えた覚えはないぞ」
 きつい口調で言った。スザクは小さく溜め息をつく。
「…よほど実力行使して欲しいんですね、殿下は」
「スザ…っ!?」
 ベッドに膝で乗り上げてきたスザクにベッドヘッドにまで追いつめられ、ルルーシュは逃げ場を探して視線をさ迷わせる。近づいてくる彼を闇雲に押しのけようとした両手は簡単に捕らわれ、スザクの唇が迫ってくる。嫌だ、とルルーシュは悲鳴をあげた。
「やめろ、スザク!」
「怯えないで。可愛がろうとしているだけだよ、ルルーシュ」
 かすれた声が皮膚をザラリと撫でる。ルルーシュは小さく身を震わせた。
「ねぇ君が眠るまで抱きしめさせて。なにもしないから」
 くちづけはごく軽いものだった。いっそ物足りなくなるほど一瞬で離れていったぬくもりに、自分が止めろと言っておきながらも寂しくなる。
 縋るような視線を向けてしまったことに気づいたかスザクがクスッと笑い、ルルーシュは顔の火照りに眉を寄せた。気まずく顔を背ける。
「――この黒猫にだけは嫌われたくないな」
 独り言のようにスザクは言って、そのあたたかい胸にルルーシュを抱き込んだ。


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風花さまの騎士皇子が大好き!とラブコールしていましたら、なんとリクエストを聴いて
こんな素敵なお話を頂いてしまいました…!ありがとうございます…!このサイトのオアシスです
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